2023年度下半期に放送された朝ドラ「ブギウギ」は結局見れないままでしたが、いやこれ、見れなくて良かったんじゃないかと思い始めてね。

というのもです。いろいろあって「あえて表層的に」笠置シズ子について調べ直そうと思っていろいろ見ていたのですが、動画を検索すると「ブギウギ」関連の、もっとはっきり言えば趣里演じる福来スズ子が歌唱した動画がいっぱい出てきたので、全部見る(聴く)つもりで見始めたんだけど、途中であまりにも辛くなって止めてしまったのです。

アタシは基本的に、過去の芸能人をモデルにしたフィクションについては甘い方だと思ってる。んなもん同じになんか出来るわけがないし、前も書いたように下手にモノマネになってたらその方がよほどタチが悪い。
あと史実と違うかどうかもどうでもいい。それこそ笠置シズ子で言えば吉本とのゴタゴタや、晩年になってお金も触れなくなるほどの潔癖症になってしまったことなど、とくに後者は朝ドラでやるべきことではないとすら思います。

だからね、結局は「カンドコロさえ抑えてくれてたら、あとは自由に」という感じで十分すぎると思ってるのですが、では笠置シズ子のカンドコロはどこなのかって話です。
時代が時代なので笠置シズ子のプライベートはわからないことが多い。というかプライベートの喋り方もよくわからない。せいぜい「家族そろって歌合戦」の審査員をしていた姿を思い浮かべるのが関の山でしょう。
だから<素>はわりとどうでもいいというか、こんな感じだったのかな、と自分を思い込ませることは可能なんです。

となったらです。笠置シズ子と言えば何と言っても<歌>なわけで、歌さえ笠置シズ子に聴こえたら問題ない。
そうは言ってもこれもモノマネになってる必要はない。ないんだけどさ、ここからが重要なんです。
笠置シズ子のあの歌唱法のベースはいわゆる「少女歌劇団メソッド」と言えるもので、それに服部良一から示唆された「地声で歌え」というのが合わさっている。もちろん天性のリズム感や、ジャズやブギウギを自己消化してしまうフィーリングの良さはあるのですが、それでも笠置シズ子の歌唱は我流ではない、あくまで発展系だってのは<絶対>なんです。

しかし、残念ながら趣里の歌い方にはそうした「少女歌劇団メソッド」というような<流れ>を一切感じない。現代人が現代人の<流れ>で普通に歌ってるだけ、みたいな。
あんなブレスの使い方をする戦前の歌手はいない。あんなささやくように歌う歌手もいない。「クルーナー唱法」と言うけど、実は大声ではないだけでもっと腹の底から声を出してる。(これは「センチメンタル・ダイナ」(のとくに出だし)を聴き比べるとよくわかる)
つまりあの趣里の歌い方は「絶対にあり得ない」んです。

さすがにこれはいただけないとしか言いようがない。それこそ戦前戦後の作品にスマホが出てくるようなもので、もちろんあからさまなギャグなら別にいいけど、それならそれでもう、真面目なドラマとしては見れない。
あとこれは歌唱法とは違うけど、伴奏もぜんぜん戦前戦後ふうじゃないね。たしかに似せたアレンジにはしてるんだけど、似せてあるだけで、とにかく<音>がまったく違う。あ、この場合の<音>とは音質のことじゃないよ。

もちろん、この手のことが気になるのはアタシがマニアに片足を入れてるからなんですが、いやぁ今の時代、さすがにこれはどうなのよ?と。昔ならともかく今は簡単にYouTubeでモノホン(つまり笠置シズ子自身による歌唱)が聴けてしまう時代なんですよ。
ぶっちゃけ、極度のマニアなんか相手にしなくてもいいと思うんですよ。例えばアタシなんか<こだわり>で頑なに「笠置シズ子」という表記にしてるけど(笠置シヅ子表記になったのは歌手引退後だけど、実際は歌手時代、歌手引退後も両表記は混在しているのですが、割合の問題です)、たいしたマニアでない人間にまで「モノホンとはぜんぜん違う」って気づかれるレベルのものをこさえるって、それはつまり<愛>がないんじゃないの?

それこそ山田参助とG.C.R.管絃楽団なんか、機材や録音環境含めて徹底的にこだわって、戦前期の<音>の再現に勤しんでる人たちがいる時代なんですよ。それをこんな、テキトーにコピーしましたってレベルで誤魔化すなんて、正直視聴者を馬鹿にしてるんじゃないかとさえ思う。
何しろアタシは「ブギウギ」を見ていない。見てないものを叩くのは性に合わないんだけど、それでも「見なくて良かった」くらいは思ってしまう。たぶん見てたら腹が立ってしょうがなかったはずだから。

なんかさぁ、せめてマニア目線で「そりゃあ違うっちゃあ違うけど、よく頑張ってるよね」くらいは思わせて欲しいわ。
ほんと、時代だけ遡って、スマホを出すような真似は止めて欲しい。それだけなんですけどね。



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