「実はラジオ番組をやることになったんですが、もしよろしければ一緒にやりませんか?」

 こんな唐突な提案を受けたのは、まだ二十世紀、ま、二十世紀ったって末だけど、具体的には1996年の話です。
 同年の6月までアタシは神奈川県茅ヶ崎市に在住していたのですが、諸事情から仕事を辞めて関西に戻ってきた、そんなタイミングだった。ま、諸事情ったって本当に理由は<いろいろ>なんだけど、何より友人とやってた音楽ユニットを本格的にやるってのが一番大きかった。
 実際、この音楽ユニットを本格化させるために友人も遠方から関西に舞い戻っており、だったらアタシもやるか、と。
 ところがです。正直、どういう経緯だったかよく憶えてないんだけど、アタシたちの音楽ユニットとはぜんぜん関係ないところで、4人組ユニットを結成してラジオ番組をやる、みたいなことが進行中だった。んで、ウチのユニットを高く評価していた、のちにリーダーとなる人物がアタシと友人のユニットを吸収しようと目論んでいたのです。
 つまりもともとユニットに入る予定だったリーダーを含めた4人+アタシと友人の計6人。これはね、ちょっと考えられないくらい多いんですよ。
 というのもです。たしかに先ほどよりしつこく<音楽>ユニットと書いてるけど、これ、バンドじゃない。つまり楽器を手に持って、という類いのグループではない、ということです。ま、あちこちにそれらしいことは書いてきたのでネタを割りますが、要するにレゲエのユニットです。

 リーダー、友人、アタシが形的にはヴォーカル、残りの3人がヒップホップで言うところのDJ。正確にはレゲエの場合はDJではなくセレクターと言いますが、百歩譲ってシンガー3人は「ちょっと多いんじゃね?」くらいだったとしても、DJ3人はさすがに多すぎる。つかレゲエやヒップホップのグループでDJが3人いるとか聞いたことがない。つかこのDJ3人体制はアタシたちがかかわる前の段階で集められていたので、何でこんなイビツなメンバー構成にしたのがさっぱりわからない。もしかしたら最初から<優秀な>アタシと友人を絶対吸収する予定だったのかもね。
 ま、こんな書き方なら、如何にもアタシがヘッドハンティングされるくらい優秀な人材だったっぽいけど、優秀なのは一緒にやってた友人だけで、たぶんリーダーも友人さえ引き抜けたらそれで良かったんだと思う。つまり<狙い>は友人のみ、アタシはあくまでオマケだったと。

 そもそもアタシはレゲエをほぼ知らない。何か<流れ>でレゲエをやることになったけど、そこまで、めちゃくちゃ好きなジャンルではない。さすがに嫌いではないんだけど詳しくはない。
 いや詳しくないどころか知識なんか皆無レベルです。何しろギリギリ知ってるのがボブ・マーリーくらいという有り様だったから。もちろん「やる」ことで多少知識は増えたけど、せいぜい「よくそれでレゲエやってたって言えるよね」程度です。
 だからユニット吸収にはあんまり乗り気じゃなかった。つかこんな何も知らないヤツが入ってきても足手まといにしかならないだろ。絶対いらないよね、と思ってたわけで。
 友人とやってたユニットは「友人とだから」出来たけど、そもそもアタシは人見知りだし、他のメンバーとも溶け込めそうもないし、歌うったって、アタシは歌が下手だし、というのはウチのチャンネルをご覧の方ならよくわかると思います。

 にもかかわらず、最終的に参加を了承した。
 理由はなくもない。まずリーダーが「せっかく6人組にするのだから、ゆくゆくは音楽から離れたこともやっていきたい。レゲエ版ドリフターズにしたい」と言ったこと。これはね、やっぱ惹かれるわけですよ。だってドリフターズですよドリフターズ。「音楽+笑い」って一番憧れてたラインだから。
 そしてもうひとつが冒頭のリーダーの発言、そう、ラジオ番組をやる、というとんでもなく甘い餌が用意されていたことです。
 ただしこのラジオ番組、よくよく聞くと通常のラジオ局じゃないっつーか、いわゆるコミュニティFMらしかった。そして何より、このコミュニティFMの所在地が、関西から遠く離れた福岡の局だったのです。

 そんなわけで今回はアタシが福岡に移住するきっかけとなった、というかその前日譚である初福岡の話を書いていきます。
 少なくともこの頃まで、1996年時点でアタシは福岡に、いや九州にも行ったことがなかった。だからいわば縁もゆかりもない土地だったってことになる。
 となったらです。もしこの話に乗ってなければアタシは絶対に福岡に移住なんかしてなかったと言い切れるし、今も付き合いがある、というか非常に貴重な友人であり、ウチの動画にも何度か出てもらった次郎丸さんとも出会えてなかった。ついでに一回動画に出てもらったタナカさんとも出会えてない。
 たしかに今は福岡には住んでいない。2025年、実に10年ぶりに福岡に行きまして、その話も書いたんだけど、もちろんそれもなかったことになる。
 要するに、もしこの時、つか1996年のある日、よし、このユニットに参加しよう!と決断しなければ、まったく違った人生になったってことになるわけです。

 にもかかわらず今まで、この話は避けてきました。というか華麗にボカしてきた。たとえばこのエントリでも「何で福岡に移住したの?」ってのを書いてないし、ココで書いた憂歌団のマネージャーの話も実はこのユニットでの話なんだけど、微妙にボカしてる。あとココの「お好み焼き事件」もこのユニットのメンバーとの話です。(って書いたらこの完全にこの事件が起こった場所が特定されるけど)
 はっきり言えば、このユニットについて書くこと自体が嫌だったんです。面白いこともいっぱいあったんだけど、最後非常に不愉快な終わり方で、でも書くとなったら個人名は出さないにしても、少なくとも「リーダーが」みたいなことは書かなきゃいけなくなる。もうそれだけで不快だった。
 さらに言えば、一連の流れを面白おかしく書ける自信がなかった。もちろん一流の作家なら苦い経験を上手く昇華させて青春譚としてまとめられるのかもしれないけど、アタシにはそんな力量はない。嫌な体験は不快感が全面に出た形になってしまいそうだと。

 しかし2026年になって、一本の動画を見たことで気持ちが反転した。それを見ることで、もっとノスタルジックを全面に出した形で、しかもそれなりに詳細な調査をすれば形になるんじゃないかと思ったんです。ま、ウチはあんまりノスタルジックなエントリがないっつーか<好み>の問題で書いてないんだけど、たまにはいいんじゃないかとね。
 そこまでアタシの気持ちを変えた動画、というのは、というか動画そのものへの言及は後々やるとして、とにかくこれを見ることで、初めて福岡に行った時のことをパァッと思い出した。そしてそれはその年の翌年から「在住した」福岡とはちょっと違ったものだった。
 旅行者として来た福岡と在住者としての福岡が違って見えるのもあるのですが、それ以外にも、実際いろいろ<違い>が見えてきた、というか。

 タイトル的には「笑ふラジオデイズ」の姉妹編であり、内容的には「個人的福岡五大事件」の前日譚であり、1996年のことを調査するという意味においては「ルックバック」の要素、福岡の街を掘るってことは「District」の要素も含んでいます。
 ま、時代だったり福岡という<街>だったりの調査は出来るんだけど、アタシ個人の動きや感情は記憶にしかないので、とにかく必死で当時のことを思い出しながら、何とか形にしていこうと思いますので是非最後まで読んでください。

 冒頭の、つまり「ラジオ番組をやる」という話を受けたのが1996年9月の頭だったと思う。んで中旬くらいには、友人と話し合いをした末に正式に「ユニット吸収」の話を受諾したはずです。んでラジオの収録第一回目は10月の頭、というね、今考えたらとんでもない強行スケジュールですな。
 さらにこの番組の<外枠>を書いておけば
・生放送
・放送時間は2時間
・月に一回
・ノーギャラ(たしか交通費のみ支給された)
 こんな感じです。ま、ラジオ番組で月イチってのは珍しいけど、現実問題、メンバー全員関西在住で、収録には福岡くんだりまで行かなきゃいけないわけで、ペースとしては妥当っつーか現実的なラインです。
 たしか放送前々日に福岡入りして、前日に局のスタッフと、構成やタイムスケジュールを決めるという、いやはやこれまた、こんなんでいいのかと思うほどザックリしてますな。
 実際、放送前日の夜に局のスタッフルームみたいなところで打ち合わせしたんだけど、構成もかなりザックリしてて、簡単な構成表を作っただけだった気がする。つまり「何時何分何秒からトーク、何時何分何秒からCM」みたいなヤツ。
 トークの具体的な内容の指示は一切なし。だから全アドリブだった気がする。って、いやこれが練達のラジオパーソナリティだったらそれでイケるんだろうけど、全員、少なくとも<喋り>にかんしては素人も素人、ド素人ですよ。

 ま、これがコミュニティFMのユルさなのか。それとも変に「関西から来た」ってだけで信用されてたのか。うーん。
 そんなわけでPage2に続く。

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